スイスアルプス野外実習 2006年度実習報告
−−北海道大学環境科学院 地球雪氷学実習−−
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スイス実習概要
2006年実習計画
参加メンバー
事前講習 (室内/野外)
室内講習 (低温研)
4/27
,
4/28
野外講習 (手稲)
5/6
,
5/7
実習日誌 (5/14-26)
出発〜Zurich
5/14
,
5/15
Aletsch氷河
5/16
,
5/17
,
5/18
,
5/19
Gorner氷河〜週末
5/20
,
5/21
,
5/22
Zurich〜Davos〜帰国
5/23
,
5/24
,
5/25
番外編
Gorner氷河調査
観測レポート
GPS観測
GPR観測
質量収支観測
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IAI Home
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環境科学院Homeへ
スイス野外実習10日目
17日、18日のAletsch氷河での調査をもとに観測結果のプレゼンテーションを行っ た。前日夜遅くまでプレゼンの準備を行っていたグループもあり、たくさんの 意見が交わされた。9:00:JanさんによるGPSのデータと解析結果。 この日の 午前中にはGorner氷河に再び観測に向かうJanさんとAndreasさんに1時間ほど プレゼンに参加してもらい、データ結果を見せていただいた。調査の結果、 GPRから発信された電磁波は、氷河の深度が増す(深くなる)につれて透過する 速度が遅くなることがわかった。これは深くなるに従い上からの雪の重みで圧 密がおこり、雪の密度が大きくなったことによって透過速度が遅くなったこと が考えられる。(
JanさんのHPへのリンク
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この後、各観測グループごとに得られたデータの解析結果が発表された。 10:00:(1) 積雪断面観測(油目、菊田、田中) 氷河表面からの深さと雪質の 分類・分布の関係、深さと密度の関係、深さと雪温の関係についての結果が報 告された。深さ0.7〜0.8m付近にアイスレイヤー(氷板)が集中しており、そこ を境に層構造が著しく異なった。また密度はごく表層を除いては深さとともに 増加し、雪温は氷板の集中する0.7〜0.8m付近で大きく下降することがわかっ た。さらに、氷板の数が氷河上では平地の場合よりも多数観測された。 (
積雪断面観測のPPTへリンク
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(2)涵養量測定掘削(梶原、末松、山賀) アイスコアのドリリング(掘削)に よる涵養量測定の発表が行われ、掘削の装置や方法が説明われた。密度のプロ ファイルの結果が示され、昨年5月から1年間の涵養量(氷河に雪や氷が付加さ れる量)の観測値が得られた。平均の涵養寮は3.50±0.18mであり、これは水 等量に直すと1566.4±173.5mmであった。また冬の暴風や春の多量の涵養、夏 の融解による圧密などの季節変動の影響に関する考察も述べられた。 (
涵養量測定掘削のPPTへリンク
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(3) 気象観測(佐々木、平池、安田) 気象測器WXT510(Vaisala)の原理や測 定内容、ロガー設定の解説があり、気象測器による観測データがうまくとれな かったためにメテオスイス(スイスの気象局)の観測当日のデータをもとに気象 観測の発表が行われた。このグラフからわかるように、ユングフラウヨッホ (氷河)の麓の町(海抜580m)インターラーケンでは昼の12時から16時付近で気 温が最高になるのに対し、ユングフラウヨッホ(氷河上)では観測当日は夜22時 に最高気温を記録しており、平地の一般的な気象条件とはかなり異なることが わかった。これが氷河の涵養や消耗にどのような影響を与えるかは今後興味の ある課題である。 (
気象観測のPPTへリンク
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(4)GPS(新井、塩原、内藤)GPS(Global Positioning System)の測定方法 (Real-Time Kinematic positioning, Static relative positioning)の説明や、 GPSによる今回の調査の観測場所の位置(Study site)の特定、観測した各地点 での氷河の流れの速度、方向、氷河の傾斜などが発表された。氷河の上流側 (Top)での結果は誤差が大きく省かざるを得なかったが、氷河の年平均氷流速 度は水平方向に34.5m/y、垂直方向に‐7.1m/yに流れていることがわかった。 氷河の流れを横断する方向の表面傾斜は中央部が高くなっており、氷河の下流 へ向けての表面傾斜は4.3度であることが観測結果から明らかになった。 (
GPSのPPTへリンク
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13:00 大村先生による講義 氷河にまつわる基本的な知識や、地球温暖化が氷 河にもたらす影響について講義をしていただいた。中でも興味深かったのは、 スイスの氷河だけでなく赤道付近から南・北半球に渡る世界中の氷河の観測デー タを研究機関から収集してまとめ、それらの比較分析をされたグラフであった。 そのグラフでは確かに地球上の氷河が近年減少する傾向にあり、その減少速度 は年々加速していることが示されていた。また氷河の成長後退に関する季節別 調査の重要性、南極の氷棚の動向、地球に降り注ぐ放射の変化とその影響など についてもお話をしていただき、氷河だけでなく、温暖化全体を考える上で大 変意味のある講義だった。Picture 1. Dr. Ohmura lectures of Glaciology and Global warming, the graph shows seasonal variation of glacial mass balance. (
大村 先生のHPへのリンク
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ここで、講義をしていただいた大村先生の研究紹介を少ししたいと思う。大村 先生の研究成果として、Geophysical Monograph150 IUGGのVolume 19に' Cryosphere during the twentieth century'という論文が掲載されている。講 義でもお話されたように、大村先生は世界各国の研究機関から雪や氷の存在す る地域(寒冷圏)の観測に関するデータを収集し、世界の寒冷圏の20世紀の間の 変動と現状を研究された。その結果、氷河をはじめ世界中の雪氷圏の縮小が見 られ、温暖化による影響を数値化して証明することに成功された。また、2005 年5月の科学雑誌Scienceにおいては、'For dimming to brightening; decadal changes in solar radiation at earth's surface'という論文で地球に降り注 ぐ太陽放射の周期的変化について発表されている。大村先生は世界各地から観 測データを収集、分析され、1985年付近を境にそれ以前では地球に到達する太 陽放射が弱まり(dimming)、それ以降は太陽放射が増えている(brightening)ト レンドがあることを結論付けられた。大村先生はその影響として大気中のエア ロゾルが減少したことや、dimmingが1970年代の温暖化抑制に影響を及ぼした のではないかと述べられている。
16:30(5)GPS(大津、坂田、西村)観測結果のデータは午前中にIanさんが報 告してくださったので、GPRについて発表した。GPRとはGround Penetrating Radar techniqueの略であり、地面や物質の表層を、電磁波を用いてイメージ 化する物理探査方のひとつである。今回の観測では数種類の異なる波長の電磁 波を使い、氷河内部の年層などを観測した。GPRにはcommon midpoint measurementとcommon offset measurementがあり、その測定方法と原理につい て詳しく解説を行った。(
GPRのPPTへリンク
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17:30 講義と発表の後解散し、担当に当たっている数人は日本へ送る観測装置 などの荷物の荷造りを行った。残りの学生はチューリッヒ駅の地下にあるショッ ピングモールやcoop(スーパー)に各自お土産を買いに行った。20:00 coopで 買ってきたハムやチーズ、ビールと日本から持ってきた日本食でホテルの部屋 で夕食会をした。
まもなくしてホテルの屋上で行われていた打ち上げに合流し、きれいなZurich の夕焼けが沈んだところで部屋の中へ。旅も終盤に近づき、これまでの旅の工 程やこれまでの講義、氷河上での観測やスイスの美しい風景など、様々なこと について話に花が咲き、なかなか熱い飲み会だった。
文責 大津 聖子
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